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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页
みたいに、まだ遊び呆うけていた。
そのあげくだったと思う。ぼくらより年上で、章魚とアダ名していた子の周りへ、みんなが円くなって集まった。
何か秘密めいた興味がぼくらを燃やしていた。タコは杉垣根をうしろに腰かけ、衣服の前をあけはだけて、土瓶の口ほどな小さな性器をぴんと立ててみんなに誇示していた。
どういうものか誰も笑いもしなかった。まじまじと、見まもりあっていた。そのうちにタコは腰をにじらせて少し位置を更えた。月の光がうまい工合いに彼の股間へ青白く射しこみ、奇妙な物が一そう鮮らかに見えたので、そのとき初めてみんながクンクン鼻を鳴らして笑った。するとタコが誰かに「舐めろ」と命令した。「舐めないとぶンなぐるぞ」と脅した。云われた者が犬ころみたいに四つン這いになって、タコのそれを口に入れた。タコはまた次の者に命令した。順々に四ツ足じみた背中が引っ込んではまた次の背中がタコの前に出た。
正確にいえないが、ぼくは五ツか六ツだった。でもこの晩の印象は、ひどく鮮明なのである。ぼく自身にはタコの前に匍匐した覚えは残ってない。おそらく逃げ帰っていたのであろう。しかし、性器について何か意識を灼きつけられた最初の経験であったことはまちがいない。