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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页
――といったような風景が、遠い明治の一日として思い出される。
そうしたぼくら明治の人間の先入観では、大正、昭和にわたるあの物々しい、超警戒ぶりは、何ともわけが分らなかった。街頭の群集をみな敵と視るような、あの冷やッこい鹵簿の列と、幼時の印象とは、隔世の感があった。
戦後は天皇も民主風になられたとはいっても、なお相沢の貧しい民衆と陛下との間に見られたような風景はどこにもないと思う。たとえば各種のスポーツや競馬などに、天皇杯や天皇賞は贈られているが、賞と共にグランドに臨まれることはないし、そこの民衆と一しょになって共に一日を遊ぶという時間もお持ちになっていないようだ。
ちょっと一例までに、明治編年史の中から同三十二年五月に明治天皇が根岸へ行かれたときの国民新聞記事を抽出してみると、こんな風に掲載されている。
――かくて午前十時を過ぐる頃、根岸競馬場に御着あらせられ、暫時御休憩の後、天覧場へ入御、下賜せられたる銀製花瓶と、青木外務大臣夫人の賞品七宝花瓶とは、馬見所の玄関に飾られ、誰人がこの名誉の賞品をうべきかは、当場所第一の談柄なりき。
なほ陛下の御下賜賞以外に、「北京賞盃」