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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页

青空文庫

もありて、勝利馬二百二十五円、二着馬五十円を付したる第六回競馬は、かくて午後三時発馬と注せられたり。

アールフイルド氏の   トルトイス

同           テラビン

ヒヨゴ氏の       イクブチ

ラシヤ氏の       チンギス

ニシムラ氏の      アヅマ

スターライト氏の    マース

六頭は今日を晴れと、一哩半を競ひ、さしも広き芝生も数万の内外人に充され、英国軍艦バアフローア号乗組員が奏する勇壮なる楽隊と万雷の如き喝采の中に、勝は西村氏のアヅマに帰したり。

ぼくの父は馬は持たなかったが、経営している横浜桟橋合資会社は、外国人との折衝が半ば商売みたいなものだから、根岸倶楽部にはよく出入りしていたらしい。ぼくも競馬はたびたび見せられ、家庭でも競馬の話に賑わった。まだ横浜競馬も初期だったせいか、一般にも競馬を汚れたものと見るふうはなかった。特に、天覧競馬のレース当日などは、横浜中の祭典といってもよかった。市中もその話題で持ちきって、スペインの牛祭か何かのような騒ぎだった。

ついでに云うが、その頃の名騎手カンザキの名は、ぼくら幼童の耳にも、英雄の如きひびきと憧憬をもたせたものである。