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じょうき
情鬼
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页
「オホホホホホホ。気がつかなかったの? あれや人形ですよ」
「えッ。人形?」
私はぞっとした。
「あの似顔なかなかよく出来ていましたね」
「じゃ宮本夫人が持っていたあのほの白い棒、あれや何でございますの?」
「さあね、まあ云うのは止しましょう。どうせいまに分るでしょうから」
夫人は意味ありそうに微笑した。私はあの小さいほの白い棒が気にかかってならなかったが、強いて訊いてみるだけの勇気もなかったので、その儘黙ってしまった。夫人は気の抜けたようになっている私を急き立てて、こんどは改めて表玄関から名刺を出し、吉岡五郎氏に面会を求めた。二人は長い間玄関の敷石の上で待たされた。
軈て取り次ぎのボーイに案内されて、細長い廊下を幾度も曲り、やっと吉岡氏の扉の前に立った。ボーイはノックしておいてから二人を残して立ち去った。
ここでもやや少時待たされた。室内をあっちこっち歩く靴の音を聞きながら彳でいると、扉が内から颯と開いて、吉岡五郎氏の美しい姿が燈を背にしてすらりと立っていた。
「宮本さんの奥様、いや。今日は吉岡秘書官としてお目にかからせて頂きましょう」
はっとしている宮本夫人を押し入れるようにして、S夫人は室内に入り、同時に自分で扉を閉めてしまった。