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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

2

痩せ形で西洋人のようにスーツがしっくりとよく身についている。いい姿だな、と思わず振り返って見ると、先方の二人も同じように振り向いて見ていた。どこかで見たような顔だがどうも思い出せない。この頃の若い連中には美しい人が沢山あるが、こんなにすべてが整った人は多くはないだろう、黒い大きな眼鏡がちょっと邪魔になるが、上品な顔だちと、貴公子らしい風采とはいつまでも眼に残った。何んて奇麗な男だろう。

小田切大使の遺骨は黒い布に覆われて、ガラス戸棚の中段に安置されていた。その前には黒いリボンを結んだ小さな造花の花輪が供えてあった。私はそこに跪いて祈祷を捧げた。

2

それから一ヶ月ばかり過ぎたある日、事務所に働いて居る私の処へ、給仕が一葉の名刺を持って来た。

小田切久子と書いてあるその名刺をS夫人に示しながら云った。

「小田切大使の令妹さんでございますの」

もうこの頃では小田切大使の死も世間からそろそろ忘れられかけていたし、自分達の間でさえも、自殺か他殺かなどと問題にしなくなっていたので、この突然の訪問はちょっと妙な感じを与えたのだった。

「こちらにお通し申して下さい」