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おしみなくあいはうばう

惜みなく愛は奪う

有島 武郎

「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页

青空文庫

然し私はそうは思わない。その荘厳な光景に対して水夫が感激を感じた以上は、その瞬間に於て彼は詩人だ。何故ならば、彼は彼自身に対して思想的にその感激を表現しているからだ。

世には多くの唖の芸術家がいる。彼等は人に伝うべき表現の手段を持ってはいないが、その感激は往々にして所謂芸術家なるものを遙かに凌ぎ越えている。小児――彼は何という驚くべき芸術家だろう。彼の心には習慣の痂が固着していない。その心は痛々しい程にむき出しで鋭敏だ。私達は物を見るところに物に捕われる。彼は物を見るところに物を捕える。物そのものの本質に於てこれを捕える。そして睿智の始めなる神々しい驚異の念にひたる。そこには何等の先入的僻見がない。これこそは純真な芸術的態度だ。愛はかくの如き階級を経て最も明かに自己を表現する。

けれども私達の多くはこの大事な一点を屡顧みないような生活をしてはいないか。ジェームスは古来色々に分派した凡ての哲学の色合は、結局それをその構成者の稟資(temperament)に帰することが出来るといっている。これは至言だといわなければならぬ。私達の生活の様式にもまた同様のことがいわれるであろう。