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おしみなくあいはうばう

惜みなく愛は奪う

有島 武郎

「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页

青空文庫

一八

その時彼にとっては行為の結果に対する苦い後味が残る。その後味をごまかすために、彼は人の為めに社会の為めに義務を果し、献身の行いをしたという諦めの心になる。そしてそこに誇るべからざる誇りを感じようとする。社会はかくの如き人の動機の如何は顧慮することなく、直ちに彼に与えるのに社会人類の恩人の名を以てする。それには智的生活にあっては奨励的にそうするのが便利だからだ。そんな人はそんな事は歯牙にかけるに足らないことのように云いもし思いもしながら、衷心の満ち足らなさから、知らず知らずそれを歯牙にかけている。かくてその人は愛の逆用から来る冥罰を表面的な概念と社会の賞讃によって塗抹し、社会はその人の表面的な行為によって平安をつないで行く。かくてその結果は生命と関係のない物質的な塵芥となって、生活の路上に醜く堆積する。その堆積の余弊は何んであろう。それは誰でも察し得る如く人間そのものの死ではないか。

一八

愛は個性の生長と自由とである。そうお前はいい張ろうとするが、と又或る人は私にいうだろう。この世の中には他の為めに自滅を敢えてする例がいくらでもあるがそれをどう見ようとするのか。