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おしみなくあいはうばう

惜みなく愛は奪う

有島 武郎

「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页

青空文庫

然し私はこれを弱いものの強味と呼ぶ。何故といえば私の生命の一路はこの極度の弱味から徐ろに育って行ったからだ。

ここまで来て私は自ら任じて強しとする人々と袖を別たねばならぬ。その人々はもう私に呆れねばならぬ時が来た。私はしょうことなしに弱さに純一になりつつ、益※(二の字点、1-2-22)強い人々との交渉から身を退けて行くからだ。ニイチェは弱い人だった。彼もまた弱い人の通性として頑固に自分に執着した。そこから彼の超人の哲学は生れ出たが、そしてそれは強い人に恰好な背景を与える結果にはなったが、それを解して彼が強かったからだと思うのは大きな錯誤といわねばならぬ。ルッソーでもショーペンハウエルでも等しくそうではなかったか。強い人は幸にして偉人となり、義人となり、君子となり、節婦となり、忠臣となる。弱い人はまた幸にして一個の尋常な人間となる。それは人々の好き好きだ。私は弱いが故に後者を選ぶ外に途が残されていなかったのだ。

運命は畢竟不公平であることがない。彼等には彼等のものを与え、私には私のものを与えてくれる。しかも両者は一度は相失う程に分れ別れても、何時かは何処かで十字路頭にふと出遇うのではないだろうか。