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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
お前が外部的に教え込まれている理想の物指にあてはめて見ると、私はいかにも物足らない存在として映るだろう。私はキャリバンではない代りにエーリヤルでもない。悪魔ではない代りに天使でもない。私にあっては霊肉というような区別は全く無益である。また善悪というような差別は全く不可能である。私は凡ての活動に於て、全体として生長するばかりだ。花屋は花を珍重するだろう。果物屋は果実を珍重するだろう。建築家はその幹を珍重するだろう。然し桜の木自身にあっては、かかる善悪差別を絶したところにただ生長があるばかりだ。然し私の生長は、お前が思う程迅速なものではない。私はお前のように頭だけ大きくしたり、手脚だけ延ばしたりしただけでは満足せず、その全体に於て動き進まねばならぬからだ。理想という疫病に犯されているお前は、私の歩き方をもどかしがって、生意気にも私をさしおいて、外部の要求にのみ応じて、先き走りをしようとするのだ。お前は私より早く走るようだが、畢竟は遅く走っているのだ。何故といえば、お前が私を出し抜いて、外部の刺戟ばかりに身を任せて走り出して、何処かに行き着くことが出来たとしても、その時お前は既に人間ではなくなって、一個の専門家即ち非情の機械になっているからだ。