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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
七
七
私の個性は更に私に告げてこう云う。
お前の個性なる私は、私に即して行くべき道のいかなるものであるかを説こうか。
先ず何よりも先に、私がお前に要求することは、お前が凡ての外界の標準から眼をそむけて、私に帰って来なければならぬという一事だ。恐らくはそれがお前には頼りなげに思われるだろう。外界の標準というものは、古い人類の歴史――その中には凡ての偉人と凡ての聖人とを含み、凡ての哲学と科学、凡ての文化と進歩とを蓄えた宏大もない貯蔵場だ――と、現代の人類活動の諸相との集成から成り立っている。それからお前が全く眼を退けて、私だけに注意するというのは、便りなくも心細くも思われることに違いない。然し私はお前に云う。躊躇するな。お前が外界に向けて拡げていた鬚根の凡てを抜き取って、先を揃えて私の中にし入れるがいい。お前の個性なる私は、多くの人の個性に比べて見たら、卑しく劣ったものであろうけれども、お前にとっては、私の外により完全なものはないのだ。
かくてようやく私に帰って来たお前は、これまでお前が外界に対してし慣れていたように、私を勝手次第に切りこまざいてはならぬ。