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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
本能とは大自然の持っている意志を指すものと考えることが出来る。野獣にはこの力が野獣なりに赤裸々に現われている。自然科学はその現われを観察して、詳細にそれを記述した。そしてそれが人類の活動の中にも看取せられるのを附け加えた。この記述はいうまでもなく明かな事実である。然しその事実から、人類の活動の全部が野獣に現われた本能だけから成り立つとは、科学は結論していないのだ。然るに人は往々にして科学の記述を逆用しようとする。これは単なる誤解とのみ見て過すことが出来ないと私は思う。
人間は人間である。野獣ではない。野獣が無自覚に近い心でなすところを人は十分なる自覚をもってなしているのである。若し人がその自覚を逆用して、肉にまで至る愛の要求のない場合に、単に外観的に観察された野獣の本能に走ったならば、それは明かに人間の有する本能の全体的な活動ということが出来ない。同時に、人間の本能の中から野獣と共通な部分を理智的に引き離して、純霊というような境地を捏造しようとするのは、明かに本能に対する謂れのない迫害である。本能は分解とは両立することが出来ない。本能はいつでもその全体に於て働かねばならぬ。