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おしみなくあいはうばう

惜みなく愛は奪う

有島 武郎

「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页

青空文庫

一七

見よ愛は放射するエネルギーでもなければ与える本能でもない。愛は掠奪する烈しい力だ。与えると見るのは、愛者被愛者に直接の交渉のない第三者が、愛するものの愛の表現を極めて外面的に観察した時の結論に過ぎないのを知るだろう。

かくて愛の本能に従って、私は他を私の中に同化し、他に愛せらるることによって、私は他の中に投入し、私と他とは巻絹の経緯の如く、そこにおのずから美しい生活の紋様を織りなして行くのだ。私の個性がよりよく、より深くなり行くに従って、よりよき外界はより深く私の個性の中に取り込まれる。生活全体の実績はかくの如くして始めて成就する。そこには犠牲もない。又義務もない。唯感謝すべき特権と、ほほ笑ましい飽満とがあるばかりだ。

一七

目を挙げて見るもの、それは凡てが神秘である。私の心が平生の立場からふと視角をかえている時、私の目前に開かれるものはただ驚異すべき神秘があるばかりだ。然しながら現実の世界に執着を置き切った私には、かかる神秘は神秘でありながらあたり前の事実だ。私は小児のように常に驚異の眼を見張っていることは出来なくなった。その現実的な、散文的な私にも、愛の働きのみは近づきがたき神秘な現われとして感ぜられる。