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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

四

「なんやね、これは……満足な椅子ひとつないな。これじゃ、ひどすぎるよ。清水さん、こっちのほうにも家具を入れて、一通り、設営してやんなさい。それくらいのことをせんでは、あんたも義理が悪かろ」

四

五十雄君を部屋まで送って、ついでに庭向きの賢夫人のお居間をのぞいてみると、夕方まで帰らないはずの賢夫人と千々子さまが、人目を忍ぶように、ひっそりと、おひそまりになっていた。お召物の仕掛けを見ると、見馴れたふだんのお服で、外出したようすはない。

「おやっ、いつ帰ったんだ」

「なんです。その、おっしゃりようは」

「失礼しました……いつお帰りになりましたの」

「いつだっていいでしょう。それを聞いて、どうしようというの」

「ちょっとおたずねしたので……広い家ってのは、なるほど、お子供向きですね。隠れん坊ができますから」

「なにをぐずぐずいってるんです。用でもあるんですか」

「お父さまが呼んでますから、お迎いに」

「迎いなんかいらない。呼ばしておけばいいのよ」

千々子さまは編物の手をやすめて、賢夫人に意味ありげな眼づかいをすると、

「パパは、やはり逃げるつもりだったのよ。ママを呼びに来るようでは、ようすが知れるわね。