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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
お部屋へ行ってみると、千々子さまは、このごろ、そればかり着ているレースのついた洒落れたアフタヌンにおさまり、長椅子のうえに足を投げだして、ジャルダン・デ・モードを読んでいらっしゃった。
「さっそくですがね、白い馬はどうしたの。なにか、お便りがあって?」
千々子さまは感ちがいをして、どうしたまちがいか、ほかの男のひとのことをしゃべりだした。
「あのひとね? あれから二度ばかり、家へきたことがあるわ……黒いってほどじゃないけど、煤っぽくて、白馬って感じじゃないわね。せいぜい駱駝ぐらいのところ……愛情も、ずいぶんへんてこなの。あたしの手に、ちょっと触っただけで、昂奮するという過敏ぶり……扱いかねて、あぐねちゃったわ。婚約者がありますから、結婚できませんって断ったの」
「そんなのも、あったんだね。知らなかった」
「あなたも駄目ね。千々子ってものを、ちっともわかっていないじゃありませんか。相手によっては、嘘をまぜてものをいうほうが、便利なことだってあるんです。よくおぼえておきなさい」
と、おっしゃった。
翌日の夕方、賢夫人と千々子さまが、こんなことをいっているのを、通りすがりに聞いた。