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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
六月卅日には、熱帯性の低気圧が来、北陸では豪雨になって、何百人かのひとが死んだ。七月十日から雨が降りだし、関西では大水が出たが、蛇腹壁を高くまわした石田家の洋館の平屋根には、プールに張るほど雨水がたまり、白蟻に荒らされて、空洞になった横梁の中心へ、微々と滲みこんでいたが、十八日の『吉野地震』のひと揺れでがっくりとなり、漆喰もろとも、復讐でもするように、二階の天井を投げだしてしまったため、ハークネス氏の居間になるはずの部屋の屋根がぬけ、手のとどくところに、雨雲の走るのが見えるようになった。
石田家の一家五人が、渋谷の奥のバラックの楽園を出て、先行不案内のまま、麻布の古邸に復帰したのは五月の末のことだったが、間もなく、ケチンから火事を出す騒ぎをした。五月の末から、わずか二ヵ月の間に、火、風、水、土、四大の厄に遭うというのはよくよくのことで、頼んだって、こういううまい都合にはならないのが普通である。
ヘンリ清水に指摘されるまでもなく、麻布の古屋敷の存在は、戦前から、石田夫妻の苦の種になっていた。それが、どういう因縁かで接収され、四人家族を抱えた、係長クラスが、ケチに徹した賢夫人の陰険な働きがあったとはいえ、その間に、二十万近くの臍繰りを貯めこみ、当主たる石田氏が、行政機構改革で馘になったあと、五月の末から七月