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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

会堂の入口から、蝋燭の黄色い光のチラチラする内陣の前まで、広い通路がまっすぐにつづいている。絨氈を踏んで前の席へ行くと、内陣に近い親族席に、太田夫人の幅広の顔がおさまっていた。

鐘が鳴りやむと、玄関の大扉が閉った。椅子にいる顔が、いっせいに薄闇のなかに沈み、天井から釣りさがった大枝燭台と内陣の蝋燭の火が、浮きたつような明るさでゆらめきだした。鼻の稜ばかり高い、烏天狗の面を漂白したような感じのシュラーと、造花のオレンジの花のついた頭被の下でキョトンとしているミドリさまが、内陣の柵の前に並んで立っている。

冠をかぶった司祭が、笏杖を持って聖器室から出てきて、型どおりの質問をはじめた。ミドリさまの、「われこれをねがう」という、腑ぬけのような声が聞えた。

指輪を交換し、司祭が、なにか長々としゃべり、それが終ると、安息香の煙のたなびくなかで、天井をつんぬくような勢いでオルガンが祝楽を奏しはじめた。

千々子さまのサロンにあった、絵入りの結婚式のプログラムの『特級』というところに、爪のしるしがついていた。今日の式がその特級なので、めぐりあわせがよかったら、ミドリさまの立っているところに、千々子さまが立つはずだったが、運勢の序列がまずくいって、そういう都合にはならなかった。