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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
あなたは忘れていらっしゃるようですが、お家賃は、最初から三月後の後払いで、一昨日、四月三十日に受け取ったのは、一月の分でしたから、二、三、四と、あとまだ三ヵ月は、だまっていても、ひきつづいて家賃が入る勘定なんです」
「すっかり忘れていた。すると、なんだね、原状回復費の三ヵ月分と家賃の三ヵ月分……合わせて六ヵ月は息がつけるわけだ。それだけの時間があったら、なにかいい知慧も出るだろうさ……まずこれでひと安心だ。前途に光明がみえたぞ」
「さあ、どうでしょう。そんなことで安心していられるなら、誰も心配などしやしません。終戦の直後は、山ノ手の土地や建物は、無代でも貰い手がないような時期でしたから、相続税は……それも切り換え前の旧円で、嘘みたいに安くてすみましたが、こんどの資産の再評価では、基準どおりにピシピシやられるでしょうから、六ヵ月分の家賃をみな投げだしたって、とても追いつく話ではありません。そのほうは、いったいどうなさるおつもりなんです?」
石田氏は褞袍の懐手を、大裟袈にうしろへまわし、動物園の猿のようにポリポリ背中を掻きながら、ものをいうたびに波のように揺れるぽってりとした賢夫人の口もとを、貧相な上眼づかいでジロジロとながめていたが、いうことがなくなったとみえて、詰まらなそうな顔で、むっつりと黙りこんでしまっ