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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
としか読めない。これには、頑固な先代も頭を掻いた。
その後、何通か、火の出るような手紙と電報のやりとりがあってから、やっとのことで、異種の結婚をあきらめ、涙をのんで、いまの賢夫人と結婚したという華やかな歴史を、石田氏は過去にもっている。
百々子が子供だったころの石田氏は、身装ばかりキチンとし、官僚の気取りが鼻につく、よそよそしい感じのひとだった。およそ、向きあって話をするなんて、まっぴらだったが、このごろは、二人っきりで鼻をつきあわしていても、そんなに嫌な気持ちはしない。秘密を分けあっているという思いで、しみじみとするようなこともある。
「へんな恰好をしていますね、なんなの?」
百々子がたずねると、石田氏は苦りきった顔で、
「賢夫人のところへ行って、今日の夕食は、燕尾服にしますか、タキシードにしますか、と聞いて来い」
と皮肉めかしたことをいった。
「今夜、なにが、はじまるというの?」
「家じゃ、夕食には、服を着換えて食堂へ出ることになった。お前も、そんな恰好をしていると、賢夫人にひっぱたかれるぞ」
百々子は、切なくなって笑いだした。
「たいへんだ……つまり、この家が悪いんだね? この家にさえ越して来なかったら、頭が狂いだすことなんかなかったんだ」