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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
とき折 一人の子供の姿が見喪はれた 父や母の心のなかで (後略)
土曜日の午後一時頃、軽井沢への直行が着く時分になると、信夫は革の鞄を提げて現われた。これから戸隠の山に行くとか、ちょっと千ガ滝まで行くのだとか、また一、二日軽井沢に遊びに来たとかいい、毎週の土曜ごとに例の快活そうに笑い、機嫌好く泊って行った。そして二、三日するとこれから帰京するのだと言い、出先から戻って来ると、また一泊した。この忙しい小旅行の中心地が軽井沢から、やや離れた千ガ滝附近にあるよりも、もっと遠い距離にあるらしく、しかも千ガ滝の旅館に直行することもあって、ちょっと判りかねる地理の不分明があった。或日信夫は茅野蕭々の別荘の位置と、草深い構えとを説明してああいう家に住みたいといい、芒とか萩とかが一杯別荘の周囲にあることを美しく話し出した。茅野蕭々は慶応の教授で詩人だったから、信夫も在学中からしたしんでいたのである。
信夫は私の家ではいつも離れに泊っていたが、或日何かの用事で離れに行くと鞄のわきに、一本の小型の扇が置いてあった。白檀の柄で透し模様が施された女持であった。軽井沢地方を旅行になれた人は、扇だけは持っていない、涼爽の地で扇をつかう暇がなかったからである。