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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
一度に支払えない時は二度に分けて払い、宿の気受けも好く、ここでおちついて信用を得て勉強をしなければならぬと、永年の放浪生活から足を洗い、腹をすえていたのだ。
暮鳥の寝具の上げ下ろしは、勢い私がつとめる役目だった。この田舎の殿様は、感嘆これ措くあたわざる語調で或る日言われた。
「毎日寝具の上げ下ろしは大変だね。」
併し私は却って暮鳥のこの言葉が、不思議に頭にひびいた。何も寝具の上げ下ろしが大変なことはないはずだ、変なことをいう男だ、私は暮鳥がいつも夜具を自分で上げなくて、奥さんに上げて貰っていることに気がつかなかった。奥さんのある人のことでは、その家庭の様子さえはっきり判らないひとり者である私は、夜具の上げ下ろしが奥さんの役であることが、想像することさえ出来なかった。それから又、この牧師さんは事ごとにしみじみナゲクがゴトク、私の顔を見つめて言った。
「君は女の人もいなくて不自由だね、こんな所に一人下宿なぞしていてね。」
この言葉の、君はさびしそうだね、という、その意味もお世辞のように聴えた。奥さんという者を持った人間が、女のいない家に滞在していると、しきりに奥さんという者が引き合いに出され、思い返されて来るものらしかった。