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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页

青空文庫

かれは耳をかたむけ、そして頭の中をさぐって他人の娘が自分をお父さんと呼んでくれる嬉しさを、ついに、しっかりと捉えることが出来た。有難い彼流にいえばめぐみの一種類であった。かれはこのヒミツの愛称の内容にも次第に肯ずいた。彼女は言った。わたくしがお父さまと申し上げることが出来、そこに不安を感じない嬉しさはやはりこの称えによるもっとも相応しい私自身のあまさでございましょうと書かれてあった。

太田村山口の村端れに、ある日はじめて新雪がちらついた昼すぎ、一人で雪を面白がって歩く少女が、小高い光太郎の山小屋をめあてに元気に歩くすがたが見られた。身のつくりも東京風であり小柄できりっとした眼付には、おさえきれない悪戯者らしいしかも無邪気な微笑をうかべ、畝道を歩いていた。

光太郎は雑炊を炉で煮ていた。

雪をはらう気はいがし、光太郎は誰方かと立たないで呼びかけた。表の人は黙って立ったままだった。光太郎は戸を開けた間際、めまいをもよおすような若い女の肉顔を眼一杯にいれた。そして次ぎにはすぐあの人だなと思った。いつも手紙をくれるたびにお父さんと書く少女だったのだ。めまいは止み少女は炉の前にお行儀好く坐った。