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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
迢空が学者とか歌人とかで偉くなってから、誰一人としてこの痣のことを彼の前で、あなたの痣はどうしてそんなにインキの色をしているのですか、そしてお幾つからそれがどんな原因で額を禍いしているのでしょうかと、訊く人はなかった。この無礼な言葉が彼の愛していた人間からも聴くことがなく、また自らこれはね君、ずっと大昔からくっ付いていたんだとも言う機会のなかったことが、やはり一つの聴きもらした生涯の質問でもあり、誰もそれを言ってくれなかったことに、痣の手負いの深かったことを知られたのではないかと思った。
吃りはその吃りを判然とそう言ってくれる人の前では、もはや吃りではなく、すらすらと喋れるものである。足の不自由な人には足はちんばでも、そういうことは生きるに問題ではないと言うと、ちんばの人も憂鬱を吹っ飛ばすものである。私の額に迢空のような痣があったら、私はまず一篇の詩を書いて、このあざを見るひとの胸をぐっとつまらせて見せたかった。
痣のうへに日は落ち
痣のうへに夜が明ける、有難や。
昭和二十七年七月のある日、私は軽井沢の愛宕山の中腹にあった山小屋に、迢空をたずねて露台の椅子の上で対坐していた。