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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
呼吸をはずませた迢空は、それを鎮めるためにじっとしていて、小谷恒が洗って来た頭を見ることがつらそうであり、そんな迢空の我儘は極めてさびしいものに算えられた。そして急に迢空は小谷の機嫌を取るために、軽快そうな用事を頼んでそれで気を紛らせようとしていた。
迢空はもう一つ小谷恒に、ほとんどせがむように言い、小谷恒はそれを何時も聞きすてにしていることがあった。それは最初はただ、小谷も眼鏡をかけるといいということであった。次には君に眼鏡はきっと似合うと言って、自分の眼鏡を外してこれをかけて見たまえと、小谷がそれをかけて見せるとよく似合うと言い、そして君も眼鏡をかけろというのである。例によって一旦言い出すとそれを停める人ではない、自分で素透しの硝子玉と、銀ぶちの眼鏡を買って来て、今日からこれを架けるのだと言う。
小谷恒は度の強い眼鏡をかけ、ある夕方遅く、迢空とつれ立ってお菜を買いに出かけた。ふだん迢空の眼のとまらない処で、小谷は眼鏡を外していたが、一緒に町に出るのには、眼鏡をかけないわけにはゆかなかった。大井町出石の裏町を二人は南京豆を噛みながら、迢空は下駄をがらがら引き摺って歩き、小谷は眼鏡のせいで道路の面が、波打って見え、奇体な歩き方をして行った。