轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

おうぎの

扇野

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页

青空文庫

孝之介はこちらへ振返った、栄三郎は黙ってそれを見返した。

彼は石川孝之介が気にいらなかった。べつにはっきりした理由はない、自分が直参の侍の出だから、家老の子などというと反撥を感じるのかもしれないし、また、絵がまだ纒まっていないからと断わったのに、どうしても見ると云い張った権柄ずくに肚が立ったのかもしれない。いずれにしても、初めて顔を見たとたんに、こいついやなやつだと思った。

孝之介の唇が、ごくかすかに歪んだ。

「自信をもつというのはいいことだ」彼はこう云って、下絵のほうへ手を伸ばした、「しかし、これがもしこのまま襖絵になるのだとすると、肝心な、なにかが足りないように思うな」

「この絵にですか」

「そう、この下絵にね」

孝之介は下絵の一部へ手を向け、伸ばして揃えた指を反らせて、その一部へなにかを塗るようなしぐさをした。

「ここだよ、この小径が林から出て、――くぬぎ林だそうだね、――この林から出て川の土橋へかかるこの部分に、さあ、なんといったらいいか、その、……」彼はわざとらしく口ごもり、首を捻った、「つまりもっとも肝心なもの、竜の眼、要するに点ずべき睛といったふうなものが、この辺になくてはならないと思う」