轻松读懂日语经典作品
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页
お互いに云いたいことを胸いっぱいにもっていながら、あまりに気持が通じあっているため、却ってそれを口に出すことができない。座敷が明るすぎると、飲む酒もやがて飽きてきた。
「もうだめ、辛抱ができないわ」おつるがついに悲鳴をあげた、「駕籠でいけばいいからでかけましょう、ね、いいでしょ」
「そのほうがよさそうだね」
「あたしそう云って来ます」
おつるはほっとしたように立っていった。
垂れをおろした二挺の駕籠で、二人はまもなく桑名屋を出た。午後三時ころだったろう、栄三郎にはどっちへ向っているのかわからなかったが、駕籠は町をぬけて坂を登り、半刻ちかくいって停った。そこは左右に低い山と丘が迫っていて、日蔭もなく風もとおさず、乾いた道の照り返しと草いきれとで、蒸されるように暑かった。
「この山へ登ってみましょう」
駕籠を返してから、おつるはそう云って左側の山を見あげ、片方の裾をしぼって帯に挾んだ。
「済まないな、つまらないことを頼んで」
「いやだわ、済まないなんて」おつるはもう達者な足どりで歩きだした、「――それよりお気にいるかどうか心配よ、もしか見当ちがいだったらごめんなさいね」