轻松读懂日语经典作品
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页
「相手は好い人か」
「好い人です」とおつるは云った、「ね、――あたしのこと堪忍して下さるわね」
「どうだかね」栄三郎は唇を曲げて海のほうを見た、「ひどく波立っているな、秋から風が強くなって、ここの海も荒れるんだってね」そしてまた云った、「そろそろ帰るとしようか」
「まっすぐお帰りになる」
おつるはそう云って彼を見た。栄三郎は歩きだしながら頷いた。
「桑名屋へはいらっしゃらない」
「ああ、今日はよそう」
「あたしいってますわ」おつるは栄三郎のあとから歩きながら云った。「――今日からもうお座敷へは出ないんです、だから桑名屋へいって遊ぶつもりよ、ね、――いらっしゃらない」
栄三郎はなにかきげんのいい返辞をしようとした。けれども感情が隠せそうもないので、黙って首を振ったまま歩き続けた。おつるもそれからはなにも云わなかった、あとさきになって坂道を黙っておりてゆく二人のまわりで、茶色に枯れはじめた草がやかましく風にそよいでいた。
おつると切通しで別れた栄三郎が、控え家へ帰って裏木戸から入ると、仕切の生垣の向うに金右衛門がいて目礼し、すぐに木戸をあけてこっちへ来た。
「江戸へ船が出ますのでな」