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とびら
扉
小川 未明
「早稲田文學」1910(明治43)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,143 字 · 17 页
それともこの嵐に妨げられて、飛ぶことが出来ないのでないか?
もう黒い鳥の音がしなくなった!
怪物のような建物は平地に横たわっていた。嵐は思い思いに叫んでその周囲を廻った。頭の上を駆けた。蹴った。突き当った。怪物の赤い眼は一つ、一つ失せて、ただ一つ残ったのが赤く爛れて活きている。
Kは神経質の眼を、まだ闇の中に突き入れていた。
ランプの飴色の光りは、赤いネクタイ、黒い洋服の縞の目にくぐり込んだ。青いインキは金ペンの尖に留って、それにランプの光りが沈んで眠げに見えた。
青い曲折の多い複雑な線は、行列を造って、死んだ花弁のような白い、紙の上で笑ったり戦いたりしていた。
重なり合っている紙の、上から六枚目では、早く遠い国へ行きたい。賑やかな国へ行きたい。陰気なこの建物から逃れたいといっている。
「それはどこの国だ。何という国だ。」
「名は知らない。」
「南の方か?」
「南の方だ。」
「いつその国を知った。」
「ある時町へ出て、好い香りのする石鹸を買った。その包袋に、真紅な花が咲いていた。美しい裸体の女が、緑の葉の繁った中の湖水に浴しているのが描いてあった。その時、これはどこで出来たのかと小さな金文字を見ると、※Paris, と書いてあった。