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にぎったて
握った手
「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页
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翌日、彼はわざと三十分ほど時刻におくれて校外の庭園におもむいた。宮本武蔵の故智にならったのである。そして、これが自分の真剣勝負だと考えた。水木由子と自分のではなく、自分と自分の未来との生き方を決する真剣勝負だと考えた。これに勝てば自分の未来に勝つことができると考えたのである。
松夫はアレコレと多くのことを考えていた。たとえば、水木由子はもう今日からはロイド眼鏡をかけないだろうと考えた。それは水木由子が彼の革命に参加したシルシなのである。そして二人はともに解放の喜びにひたる。つまり、植込みの蔭にロイド眼鏡をかけていない水木由子が待っていたなら、すでに真剣勝負は彼の勝に決しているのだ。
しかし、水木由子がまだ眼鏡を捨てることを知らずに彼を待っていたなら、それはたぶん彼女の心がその素顔と同じようにまだ稚いせいだろう。彼女は書斎の恋愛心理に通じていても、実地の真剣勝負にはうといのである。その稚さは、革命家にとっても、むしろ慈しむべきであろう。そして、その場合には、当然彼の手がその眼鏡を取り除いてやるべきであるが、眼鏡を投げ捨てて踏みくだくべきか、静かに彼女の手に返して理をジュンジュンと説くべきであるか、彼はいまだに迷っていた。