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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

おお、いやだ。私はただそう思っただけで、それ以上深く考える事もせず、籐椅子を持って引返して縁側にあがり、縁側に椅子を置いてそれに腰かけて編物にとりかかった。午後になって、私はお庭の隅の御堂の奥にしまってある蔵書の中から、ローランサンの画集を取り出して来ようと思って、お庭へ降りたら、芝生の上を、蛇が、ゆっくりゆっくり這っている。朝の蛇と同じだった。ほっそりした、上品な蛇だった。私は、女蛇だ、と思った。彼女は、芝生を静かに横切って野ばらの蔭まで行くと、立ちどまって首を上げ、細い焔のような舌をふるわせた。そうして、あたりを眺めるような恰好をしたが、しばらくすると、首を垂れ、いかにも物憂げにうずくまった。私はその時にも、ただ美しい蛇だ、という思いばかりが強く、やがて御堂に行って画集を持ち出し、かえりにさっきの蛇のいたところをそっと見たが、もういなかった。

夕方ちかく、お母さまと支那間でお茶をいただきながら、お庭のほうを見ていたら、石段の三段目の石のところに、けさの蛇がまたゆっくりとあらわれた。

お母さまもそれを見つけ、

「あの蛇は?」

とおっしゃるなり立ち上って私のほうに走り寄り、私の手をとったまま立ちすくんでおしまいになった。