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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
「ゆうべは、ごめんなさい」
と言うのが、やっとで、いそいでおいとまして、道々、涙があふれて来て、顔がだめになったので、いったんお家へ帰って、洗面所で顔を洗い、お化粧をし直して、また出かけようとして玄関で靴をはいていると、お母さまが、出ていらして、
「まだ、どこかへ行くの?」
とおっしゃる。
「ええ、これからよ」
私は顔を挙げないで答えた。
「ご苦労さまね」
しんみりおっしゃった。
お母さまの愛情に力を得て、こんどは一度も泣かずに、全部をまわる事が出来た。
区長さんのお家に行ったら、区長さんはお留守で、息子さんのお嫁さんが出ていらしたが、私を見るなりかえって向うで涙ぐんでおしまいになり、また、巡査のところでは、二宮巡査が、よかった、よかった、とおっしゃってくれるし、みんなお優しいお方たちばかりで、それからご近所のお家を廻って、やはり皆さまから、同情され、なぐさめられた。ただ、前のお家の西山さんのお嫁さん、といっても、もう四十くらいのおばさんだが、そのひとにだけは、びしびし叱られた。
「これからも気をつけて下さいよ。宮様だか何さまだか知らないけれども、私は前から、あんたたちのままごと遊びみたいな暮し方を、はらはらしながら見ていたんです。