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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

私は頗るまごついた。

「意地わるね!」

と言ったら、下唇がぷるぷる震えて来て、涙が眼からあふれて落ちた。

蛇の話をしようかしら。その四、五日前の午後に、近所の子供たちが、お庭の垣の竹藪から、蛇の卵を十ばかり見つけて来たのである。

子供たちは、

「蝮の卵だ」

と言い張った。私はあの竹藪に蝮が十匹も生れては、うっかりお庭にも降りられないと思ったので、

「焼いちゃおう」

と言うと、子供たちはおどり上がって喜び、私のあとからついて来る。

竹藪の近くに、木の葉や柴を積み上げて、それを燃やし、その火の中に卵を一つずつ投げ入れた。卵は、なかなか燃えなかった。子供たちが、更に木の葉や小枝を焔の上にかぶせて火勢を強くしても、卵は燃えそうもなかった。

下の農家の娘さんが、垣根の外から、

「何をしていらっしゃるのですか?」

と笑いながらたずねた。

「蝮の卵を燃やしているのです。蝮が出ると、こわいんですもの」

「大きさは、どれくらいですか?」

「うずらの卵くらいで、真白なんです」

「それじゃ、ただの蛇の卵ですわ。蝮の卵じゃないでしょう。生の卵は、なかなか燃えませんよ」

娘さんは、さも可笑しそうに笑って、去った。