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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

といっている。

“群疑”とは何であったかはここで再言するまでもない。要するに、信雄は秀吉の手にのったのだ。家康がかれを手玉にとって用いたように、その手玉を、こんどは秀吉がひょいと横から取ったというだけのものである。

――が、その日、会見の第一印象に、秀吉がいかに信雄の歓心をつなぐのに、甘いことばをもってしたかは、想像に余りがある。

実に、気むずかしい、神経の嶮しい人といわれた信雄の父信長にさえ、多年、仕えて来て、めったに癇癪を起させずに来た秀吉である――他愛もないことだったろう。

しかし、先に、二使を通じて示しておいた講和条件の内容は、決して、甘くもないし、そう他愛ないものではない。

――条件の内容は、

一 秀吉は信雄のむすめを養女にもらう。

二 秀吉方が占領した北伊勢の四郡は、信雄に、返還する。

三 信雄は、一族の織田長益や滝川雄利、佐久間正勝、故中川雄忠の子か母などを、質として、差し出すこと。

四 伊賀の名張など三郡。南伊勢の鈴鹿、河曲、一志、飯高、飯野、多気、度会などの七郡。――それに尾張犬山城と、河田ノ砦とは、秀吉へゆずること。

五 伊勢尾張、二州にわたる臨時の築城は、双方とも、これを破毀する。