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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

女弟子

人もひとたび、心まで落ちぶれると、味気ない迂愚と堕落を、恬として辿るものではある」

全徳川の将士は、一益の行方に、こんなことばを餞別した。

一益は、木造ノ城へ落ちて、富田知信を頼ったが、秀吉のゆるしなく開城した罪をとなえて、知信は、入れなかった。

ぜひなく、京都の妙心寺にかくれ、しばらく、世評に耳をふさいで暮した。

女弟子

瓦の一枚一枚が金箔につつまれている大坂城の宇宙の大屋根は、時の力と、時の富と、時の志向を、象徴している。

その金城の一閣の下に、秀吉は六月末以来、小牧から帰って来ていた。そして七月上旬もなお、

(いくさは、どこにあるか)

と、いったように、悠々、休養していた。

休養といっても、城門は車駕騎客の往来に賑わい、公卿諸侯の訪問は、朝から夕べまで、たえまもない。

敏感な市民は、

(土地の値が上がるぞ)

(盛り場も、もっと殖えよう)

(諸大名のやしきも、どんどん建つにちがいない)

(安土とちがい、港がものをいう。いまに南蛮船も、みんな集まろうに)

(さて、小牧の御合戦に、これで上方の御勝利とあれば、すごい景気だが)

かれらは、長い見通しにも思惑をかけ、また、時局下の小牧の大戦にも、それぞれ、商機を賭けていた。