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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

迷霧

自分すらわすれていた一片の旧恩に感じて、命がけで、この大事を告げに来てくれた正林のやさしい心にたいして、弥左衛門は、

「よくぞ……」

と、両手をつかぬばかりに礼をいった。

「主人長頼さまも、大殿前田利家さまにも、決して、心底から佐々成政を、御信用になってはいないが……なおまだ、そのようにまで、深い謀略があるものとは、思いも及ばぬことであった。そちの心は、大きく届いたぞ」

金沢へ帰国すると、弥左衛門はこれを村井長頼に報じ、長頼は一日、尾山城の前田利家の前へ、正林をつれて、直接、佐々方の内情をかたらせた。

利家は、かれのこの行動が、一片の旧恩にたいする感謝から出たものと聞いて、

「ちか頃、しおらしい奴ではある」

と、黄金二枚に、時服など与えて、以後、自分の茶堂に召抱えた。

迷霧

加賀、越中の境、河北郡の朝日山に、いつのまにか、新しい砦が築かれた。

築砦にあたっていたのは、前田方の将、村井長頼と、高畠九蔵、原田又右衛門などの物頭たちであった。

八月二十二日頃、この一隊は、金沢から突として来て、不眠不休で工にあたり、忽ち、一砦をここに設けてしまったのである。

とは、知らず、富山の佐々成政は、