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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
「小兵衛、このたびは、道案内の役目、大儀だのう」
「どう仕りまして。御大将こそ、おつかれでございましょう」
「何の。まだ富山を離れたばかりじゃ。……ところで、その方は、何歳ぐらいから山歩きをして来たか」
成政は、この男を、充分、信頼して連れては来たが、かれ自身が、これから入ろうとする加能越の山境は、未踏の地なので、ひどく細心であった。
「はい、はい。それはもう物心ついた時からでございまする」
と、小兵衛は、床几に腰打ちかけている彼の姿に圧せられて、頭も上げ得ぬもののように――
「山姥の子のように、てまえは、倶利伽羅のつづら折で生れましたので、幼い頃から、里を知らずに育ちましてござりまする」
「親も、炭焼だったか」
「へい。天田越えの南谷で、じじの代からの炭焼で」
「すると、そちはなかなか出世をしたものだな。炭薪では、北陸一の商人とか申すが」
「みなお館のお引立のおかげでござりまする」
「店や住居はどこか」
「御領内の神通川に店をもち、家族どもや雇人もみな一つにおりまする」
「そうか」
と、成政はこの道案内者にたいして、さらに一だんの信用を加えたように、うなずいた。妻子眷族とその財産まで、自分の領内に置いてある者であれば、自分を裏切るようなことは、絶対にあり得ないと思ったからである。