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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

本丸といえ、書院といえ、いずこも、荒涼たる籠城の戦場である。いやその籠城戦はまだ終ってはいない。利家は、床几について、助右衛門を助けている将士に会い、

「よく、こらえていたな」

と、一応のねぎらいを与えた後、ただちに、防禦の各部署を、見て廻った。

利家と、別れて、べつな城門へ近づいた村井長頼は、坪井山の背面を撃ちながら、城下の戦で、敵の佐々与左衛門を打ちとり、そのほか四十余名の敵首をあげた。

かれが、力闘しているうちに、後続隊の野村伝兵衛、山崎彦右衛門、篠原一孝などの人々も、それぞれ一手一手の兵をつれて、城下いちめんに展戦し、前田方の犠牲者も少なくはなかったが、佐々軍は、約七百五十余体の死者をすてて、全軍、総退却を始めていた。

こなたの門、あなたの石垣からも、城の内へ、友軍がはいって来た。その旗の一つ一つ、その顔の一つ一つを迎えるごとに、城兵たちは、わきあがる歓声と、感激の眼に、涙を光らせて、迎えの手を、さしのべた。

「……ああ、かくまでに」

と、かれらが、死守したあとを見廻りながら、利家の眼にも、涙があった。

殊に、いたく利家の心を打ったのは、こんなにも、さし迫った危急の中にも、この食糧の乏しい城中へ、無数の領民を、収容していたことだった。