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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
ほどなく、成政は、軍勢をひきいて、鳥越の城下に近づいたが、依然、大事をとって、しばらく、遠巻きにしていた。
「……はての?」
かれは、怪しんだ。
なぜならば、城の本丸といわず、城門の屋根といわず、いたる所に、この山間に多い烏が、群れをなしてとまっている。
「たれぞ、見て来い」
命をうけた物見の一名が、やがて、怖々と、城壁にとっついて、内部を、篤と、のぞいて帰った。
「どうなのだ? 城中の様子は」
「烏が、遊んでいるはずです。城中は寂として、猫の子もおりません」
「なに、一兵もおらんのか、あははは。それは愉快だ」
成政は、快をさけんで、即座に、入城した。そしてここに兵馬を休め、数日来の溜飲を下げた。
佐々成政は、やがて富山へひき揚げた。手濡らさずに、取った鳥越城の空巣には、部将の久世但馬をとどめ、倶利伽羅のとりでには、佐々平左衛門を守りにおいて帰ったのだ。
――その直後のこと。
利家の使いとして、前田方の小林喜左衛門が来た。利家もかれも、まだ何も知らずに、味方の目賀田又右衛門へ、勝ち戦を知らせに来たのである。
「や、や。あれは佐々の旗じるしではないか?」
城頭高くひるがえる旌旗を見て、喜左衛門は、愕然と、馬を回して、立ち帰った。