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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

ところが。

たれ知らぬまに、秀吉は、その七月十七日附の手紙をもって、北陸の前田利家へ宛てて、

(――さて、前年の約束どおり、八月初めには、御地へまかり越え、かねがね振舞うに委せておいた佐々成政を成敗して、積年、禍乱の地を正して、秩序を明らかにしたいと思う。そのおつもりにて、準備、お手配、抜かりなく、筑前の到るをお待ちうけ候え)

と、蜂屋頼隆を使いとして、もう云い送っていたのだった。

事実。

八月に入るやいな、突として、大坂のうごきは、南から北へ、向き変った。

初旬の四日、五日とつづいて、先鋒隊は続々と北国攻めの途についた。

秀吉自身も同月六日、大坂を発し、淀川は舟行の兵馬で埋まった。

「なんじゃろ。四国攻めは措いて、この大勢と、お馬じるしは、一体、どこへ向いて行かれることぞ」

人々は、秀吉の意を、いぶかった。いや、従軍の将士すら、これでいいのかと危ぶんだ。

なぜならば、四国の役は、長曾我部の乞いによって、休戦中とは聞えていたが、その後始末もまだついていないはずだからである。

どんな名将でも、作戦には必ず重点がある。みずから、南もまだ片づかぬまに、また北へ大軍を分かち、あまつさえ、大坂城を留守にするなどという悪手を、どうして秀吉ほどな人がやるのかしら? ……と、疑われてならないのだ。