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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
笑い候え
「さきに剃髪して降伏して来たのは、命が惜しいということでしょう。信雄様、あなたは、それをどう扱われましたかな」
「筑前どのに、取做してやろうというて、返したが」
「ひきうけましたか」
「ぜひなく……」
「それは、困る」
秀吉はわざと苦りきって、口をむすんで見せた。
笑い候え
信雄は、秀吉の顔いろを見て、急に、自分がひきうけて来たことの重大さと難しさに、思い至って、はたと当惑の態だった。
「どうしても、成政の一命は、助けるわけには参るまいかの……」
と、独りつぶやいてみたり、
「成政も、今となっては、筑前どのへタテ突いたことを、真実、悔いてもおるともいう。……自体、あの男は、単純な武骨一片の男で、深い謀みがあったわけでもなく、まあ、徳川殿に、そそのかされて、巧く利用されてきたものじゃ」
と、秀吉の閉じた唇を見ながら、独り言みたいに、喋舌っていたが、ふと云い過ぎたと思ったか、信雄もまたそれきり黙りこくってしまった。
秀吉はなおも無言をつづけていた。しかし、彼のことだ。本当の腹は、きまっていたにちがいない。ただ信雄が余りにも軽忽に安うけあいして来たことが、おもしろくなかった。