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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

「そう。……そこまで貴公が仰っしゃるには、自分も、歯に衣を着せず、申しましょう」

三成は、めったに人にあらわさない情熱を面に見せ、山城守のすずやかな眸を見つめて云った。

「いまを、ふたつの世界というならば、仰せのとおり、誰しもすぐ、西に羽柴どの、東に徳川どのというでしょう。もしこのお二人が、真に、心を一つにし、利害を、ただ地上人間の億生にだけ置いてくだされば、文句なしに、世は泰平のはずですが、自分の思うには、かなしいかな、その逆だとしか信じられません」

「はて。どうしてであろう」

「三成の小智が申すのではおざらぬ。前にも、断っておいた通り、歴史が云っているのです。人間の愚なる繰り返しを」

「それは分るが、何千年来、愚なる前例を、史に見ながら、なぜまた、二つのものが、分りきった愚の轍をふむのか、拙者には、怪しまれる」

「てまえも、実に、怪しみにたえません。しかし、おそらく二つの分権は、二つのままではすみますまい。孔明の天下三分の計もだめでした。天下二分は、もっと、烈しい対立の相を呈しましょう。なぜといえば、二者の一挙一動はことごとくその対者を決定している。もっと大きな理由は、両者の猜疑と、それに乗ずる策謀家、野望家、不平家どもの煽動です。