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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
菊亭右大臣晴季は、政治家肌の公卿だった。
朝廷のかたちはあるが、ここには武力も、物財もない。あるのは、精神的な尊崇の象徴だけである。
実際の力も物もない、その尊厳を、守るためだけに、無数の雲上人は、衣冠を正し、位階勲職の古制度だけをやかましく詮議していた。
この宿命的な無能の仲間にあって、いささかでも、時勢に関心をもち、多少の野望でも抱くとすれば、当然、武門の武と権と財とに結びつかなければ、何もできない。
「菊亭どのは策士じゃよ」
かれがこういわれるのも、それに起因していた。
朝に呉将を送り、夕べに越将を迎うるの媚態を――遊女のように、これ努めて、貧しき朝廷生活をうるおし、弱き雲上の存在をたもち、そして、武田、上杉、織田、明智、羽柴――と、上洛者のたれかれを問わず、これを奏聞に達して、それらの武門が望む叙爵栄職の名を聴許し、武家の音物や黄白を収入とするのが、ともあれ、この人々の唯一な生きる道ではあった。
ひとり菊亭晴季だけではない。遠く、藤原氏の凋落期を境として、武門独裁の世となってからは、朝臣の策士はみな似たり寄ったりな者だった。それらのうちでも、菊亭晴季は、武門の棟梁と取引するにしても、なかなか人を喰ったところがあり、徒らに、安目は売らず、充分、朝廷のためにも、私腹のためにも、利を収めて、しかも威厳