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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
「オオ……」
「おう……伝右か」
相対して、しばらくは、ことばもない。
たれよりも親しい仲、たれよりもゆるしている仲の男と男との無言は、いうにまさる万感を語っているのだ。
「…………」
ついに、何もまだ語らぬうちに、伝右衛門の瞼からも、数正の瞼からも、ぼうだとして、湯のような涙がたぎりかけた。
「御城代。……いや数正どの。あなたは、ついに、世間の冬に負けて、こよいの木枯しに身をまかせ、何処へか、敗れ去るお心とみえますな」
「…………」
「御本丸は出られたが、まだお屋敷の内に在られる。何とか、ここの一歩を、もういちどお考え直しはつくまいか。いや、つくはずだと、わしは思う。――あなたの御年齢、あなたの徳川家における位置、あなたの重責……また抱えておられる沢山な家従郎党たちのかなしみやら運命の岐れをお考えになられたら、決して、この一歩は、軽々とここからは出られぬはずじゃ」
「伝右。待て。……もういってくれるな。辛い。いわれては辛い」
「意見立ては、いうなと仰っしゃるのか。それとも、考え直すというおことばか」
「いまに至っては」
「いまに至っては――どうなのです?」
「肚をきめた数正じゃ。