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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

こっちが泣いても、泣いたことがない。現に、自分が、かくまで家中の蔭口や白眼視の中におかれているのを、目にも耳にも知っていながら、あだかも、知らぬかのように、いつもこの数正を見ておられる。

(秀吉公は、あたたかい)

つい、彼の心に、比較が生じる。秀吉を思うとき、新しい大坂城を中心とする文化、軍容の興隆を思う時、数正は、ふらふらと、上方が恋しくなった。

人は秀吉を、人蕩らしの名人というが、数正は、そうは思っていない。秀吉は、自分の真価をみとめていてくれる。肩をすら叩いて――縁あらばいつにても身を寄せよ、そち程な人物を、田舎城一つに、埋もれさせておく不運さよ――と、いってくれたこともある。

数正は、いつのまにか、重大な決意を、胸に秘め始めていた。――岡崎の脱出だった。折もよし、こよい十一月十三日の烈風の闇夜こそ、それには絶好な機会と考え、前の日から風邪ぎみと偽って、ひそかに、城中から私邸へ移っていたのだった。

二つの世間

茶も求めず、召使も呼ばず、一室を閉めきったまま、客の伝右衛門と主の数正とは、話がもつれて――何か、容易に二人の間の折合はつきそうもない。