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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
於通の碁は、秀吉よりも、はるかに強かった。
このあいだから、よいなぐさめを見出したように、ひまがあると、於通と碁を打っていたが、まだ、かの女に一度も勝っていなかった。
「そもじは、碁の天才というものじゃろ。碁打ちになれ、女の碁打ちに」
と、いったりした。
於通は、秀吉を、子どもあしらいに、笑って、
「ちっとも、わたくしが強いのではございませぬ。世にも、おめずらしいほど、殿さまが、おヘタなのでございます」
「ばかを申せ。高山右近、蒲生飛騨。あれらは、青いが、浅野弥兵衛すら、わしには、折々、負けおる」
「ホ、ホ、ホ。碁は、勝つこともでき、負けてあげることもできるものでございますもの」
「女性のくせに、そもじの碁はちと、きつすぎる。石の音まで、冷たいぞ」
「もう、於通と、碁をかこむなどと仰っしゃらずに、碁を習うと仰せられませ」
「この女童が、どれ、もう一局まいれ」
こんなふうに、碁にかかれば碁に、女にかかれば女に、眼もなく、他意もなく、遊び呆うけて見える彼だった。
そこへ、使番が、
「おびただしき徳川勢が十六隊にわかれ、たった今、小牧を出て、二重堀のお味方に近づきつつあります」