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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

「では先生へ……こう仰っしゃってみて下さいませ。おととい、御城内二の丸の大書院で、先生が絵をお描きになっているとき、秀吉様がそのお出来ばえを御覧あそばしたが――その折、秀吉様から、そっと、永徳たのむぞと、お声があったはずでございます。わたくしは、その女子ですと、お伝えくださいませ」

「へえ? ……」

そんなことがあったのかしら――と、山楽は、甚だあやしく思ったが、秀吉の名をうたって来たものを、むげにも、追い返せない気がした。

――で、あわただしく、戻って来て、縁先に端居している師の永徳に、そのままを告げてみると、永徳は、

「来たか」

と、迷惑な顔をした。

事実は、たしかに、あったのである。

おととい、大書院いちめんの襖に、菊の図を構想し、さらに渓流のそばに菊慈童を配すつもりで、その容貌に腐心していると――いつのまにか秀吉がうしろに来て眺めていた。

あれこれ、絵の質問のあったあとで、秀吉は、ひと言、小声でこういって、去った。

(永徳。女弟子ひとり、手許へたのむぞ。近日にやるからの)

かれは今、思いだして、

「それだろうか」

と、山楽の顔を見た。山楽には、なお分らないので、