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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

――ところが。

かれがそこに、威容をつくって、立ったと思うと、秀吉は、今まで腰かけていた床几をうしろへ残して、ただひとり、ととと、と小股きざみに、駈け寄って来た。

「おうっ。……おお信雄様」

約束もなく、はからずここで出会ったように、両手を振りうごかし、

「やれ! おなつかしや」

これが、彼からの、第一声であったのだ。

いんぎんなる挨拶とか、会釈とかいうのではない、市中の凡俗が、よく路上の辻でやっているそれと、何の、かわりもない表情なのである。

いまや二つの天下を、一つにと争っている軍門の代表者としては、これはまったく型やぶりだ。信雄も、意外なものに打たれてまごついたが、鉄槍、甲冑、物々しく固くなっていたかれの将士も唖然とした。

おどろきは、そればかりでない。――秀吉のすがたはもう信雄の足もとへ膝まずいて、その武者わらじに、面をつけんばかりに額ずいているのだ。

そして、呆然たる信雄の手を下から取って、

「いつかは、お会いしたい、お会いしたいと、この春以来、思わぬ日とてはございませんでした。……まずは、お健勝のていで、何よりうれしゅう存じまする。……ああ、いかなる天魔がわが君を惑わして、のがれぬ合戦などに及んだことでございましょう。