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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
「小野の里の、於通と申すものか」
「はい……」
「うまいこといって、実は、徳川家の知るべの者か何か、頼まれておるのだろう。正直にいえばよし、かくして、あとから知れると、怖ろしい目にあうぞよ」
「お疑いあそばすなら、わたくしを、おん大将の秀吉様に会わせてください」
「なに、羽柴どのに、お目にかかればわかるとか」
「ええ。先頃まで、わたくしの師として、お仕え申していた菩提山の松琴尼さまは、秀吉さまもよく御存知の……いまは亡き竹中半兵衛重治さまの、お妹君でいらっしゃいますから」
「……はてな」
主水は、半信半疑だった。
「おい」
と、部下をかえりみて――
「ともかく、兵糧でも分けてやって、すこし仮屋で休ませておけ。ひょッとしたら、あわれな気狂い娘かもしれん。どうも、いうことが、いちいち腑におちんわい」
池田勝入は、この日も、わずか四、五騎をつれたのみで、城外へ出ていた。
前日も、出て、どこかを一巡して、帰ってきた。
そのまえの日も、ふた組の、将校偵察を放ち、しきりと、犬山、小牧の地方から、東海道方面へぬける山街道の地勢をしらべさせていた。
「ひどい煙だな」
兵糧炊ぎの夕けむりに、勝入は、顔をしかめながら、城門を、馬上のまま通った。