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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
そして身辺を考える。
「筑州こそ、不遜なれ。いつのまにか、父の臣たる分を忘れ、父の遺臣に、賦課を申しつけ、未曾有の築城を急ぐ上に、この身を邪魔あつかいにして、近頃は、何ひとつ諮ろうて来ぬ」
相互の音信が絶え出したのは、去年十一月頃からである。――近頃、秀吉が信雄を除く計画をしておるとか、信雄はすでに殺されたとか、彼の猜疑を募らすに充分な流言がしきりに取沙汰された頃からの現象である。
同時に、信雄が側臣の間で、不要意に洩らしたことばが、これまた、世間に伝わって、自身の底意が、多少、秀吉を刺戟したらしくも思われていたので――ついにこの正月となっても、互いにまだ新春の賀すら交わされずに過ぎていたのである。
「日野の若殿がお越し遊ばしましたが」
正月、子の日だった。
信雄が、城内の後庭で、婦女子や小姓をあいてに、蹴鞠しているところへ、表の侍がこう告げて来た。
近江蒲生郡日野の若殿といえば、氏郷のほかにはいない。年は信雄より二つ上だが、姻戚関係からいえば妹聟だ。――信雄は、あざやかに鞠を蹴りながら、取次の者をふり返って云った。
「飛騨が来たか。――いい相手が見えた。