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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

もう酒もずいぶん飲んで、相当に酔っているはずなのだが、その顔は赤くならず、むしろ平静に冴えてゆくようであった。彼は十郎太の話をよく吟味するかのように、しきりと思い耽りながら鼻毛を抜いた。右手の拇指と食指の尖端で巧みに鼻毛を摘み、くいと引張って抜くのであるが、抜いたとたんに彼は大きなくしゃみをした。

「失礼しました」と菅田平野は云った、「――これがものを考えるときの私の癖でしてね、どうも失礼」それから抜いた鼻毛を眺めながら続けた、「これは私の杞憂かもしれませんが、まあたぶん杞憂だろうと思うんですが、そういうことだとすると貴方がこのまま江戸へ帰られるのは、私としてはどうかと思いますね」

「どうかとはどう思うんです」

「どうといって、その」と菅田平野は口ごもった、「――そんな状態だとすると、陸田さんが苦境に立つことになりはしませんか、貴方が江戸へ帰って殿に直訴して、もしそれが成功するとすれば、城代家老としての陸田さんの責任も追究されるでしょう、それよりも、私はそのまえに奸物どもが策謀して、罪を陸田さんになすりつけるような、……むろんこれは杞憂だと思うが、奸物どもとしてはそのくらいの謀略はやりかねない、私はそのことを心配しますね」