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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

侍はどうした人であろうかと、桜の下へ寄って往った。と、人影も前に動いた。それは顔の沢々したな女で、黒っぽい色の衣服を着ていたが、絹物の光のあるものであった。侍は一眼見て路が判らないで当惑している者らしいなと思った。侍は聞いてみた。

「何方かお探しになっておりますか」

「私は第六天坂の下に叔母がいると云うことを聞きまして、尋ねてまいった者でございますが、往って見ますと、その叔母は、とうに何処へか引越していないので、此処まで帰ってまいりましたが、他に往く目的もないので困っております」

と、女は萎れて云った。

「それはお困りでございましょう、貴方は何方からお出でになりました」

「私は浜松在の者でございますが、一人残っておった母に死なれまして、他に身寄りもございませんから、父の妹になる叔母を尋ねてまいった者でございます」

「それでは、その叔母さんの居処がお判りにならないのですな、それはお気の毒な……」と云って、侍は女の容をじっと見た。

女は悲しそうな顔をしながらも、さも、この同情にすがりたいと云うような素振をしていた。女の髪につけた油の匂がほんのりと鼻に染みた。